夜間頻尿とは
夜間頻尿とは、「夜中に、頻尿のために1回以上起きてしまう症状」です。患者様ご本人はもちろんご家族や介護している方などが、夜中のトイレで困っていると判断できた場合は、治療の対象となります。ちなみに、ベッドに入った後に熟睡できずにトイレへ行った回数は、「夜間頻尿の回数」に該当しません。
夜間頻尿があっても、「もう年だから仕方がない」と思っている方もいますし、治療する必要のない方も少なくありません。患者様のライフスタイルや価値観などによって、QOLへの影響力も変わっていきます。
治療方法を決定するには、患者様のQOLにどれほどの悪影響を及ぼしているかをきちんと評価し、治療すべきかどうか判断することが必要です。
夜間頻尿の問題点 ~夜間頻尿は寿命を縮める?~
夜間頻尿は睡眠不足の元になる症状です。睡眠不足でいると「昼間の強い眠気」や「集中力・やる気の低下」「趣味が楽しめない」といったトラブルが起こりやすくなります。
また、四六時中トイレのことが気になって不安が大きくなり、その不安によって睡眠不足になるという、負のスパイラルに陥りやすくなります。 平成22年に発表された研究によりますと、夜中に二回以上トイレへ行く人は、転倒による骨折の回数が多かったり、寿命が短くなったりすると指摘されています。
健康的に日常生活を過ごすにはやはり、十分な睡眠を取ることが重要です。心当たりのある方は、ぜひ当院へお越しください。
夜間頻尿の原因
「高齢者」や「肥満や高血圧、うつ病、前立腺肥大症、糖尿病、心臓病などの疾患にかかっている方」は、夜間頻尿に悩みやすい傾向にあります。 主な原因としては、「多尿・夜間多尿」「膀胱の容量が減っている」「睡眠障害」が挙げられます。この中でも「夜間多尿」が33%、「夜間多尿と膀胱容量の減少を伴っているケース」が21%、「膀胱容量の減少」が16%、「多尿」が17%だと言われています。
全体を見ると、「膀胱容量の減少」が37%、「尿量の異常」が71%も占めていることが分かります。このデータから、「夜間頻尿」の原因のほとんどが「尿量の異常」によるものだと読み取れます。
多尿と夜間多尿
多尿とは、1日の尿量が正常(40mL/kg)よりも多い状態です。主な原因としては、水分の過剰摂取や多喝症(脳の口喝中枢の異常)、薬の副作用、アルコール、尿崩症(にょうほうしょう:抗利尿ホルモンの分泌異常などを機に、尿が大量に排出されてしまう疾患)、高血圧、糖尿病などが挙げられます。
そして夜間多尿とは、夜間の尿量が多い状態です。1日の尿量のうち、夜間の尿量が高齢者で33%以上、若い人で20%以上だった場合、夜間多尿に該当します。
加齢や高血圧、過剰な水分摂取などが原因で起こります。また、高血圧や心臓病などの薬や、腎機能障害・下腿浮腫による尿の萎縮異常などによって、夜間多尿になるケースもあります。睡眠時無呼吸症候群も、夜間多尿のリスクを高める疾患です。
膀胱容量の低下
前立腺肥大症や過活動膀胱、間質性膀胱炎などによって、尿を貯蔵する膀胱の容量が減少してしまうケースがあります。 特に前立腺肥大症を発症していると、尿道が狭くなるため膀胱への負担が大きくなります。
負担をかけ続けていると膀胱の筋肉が硬直し、きちんと膨らまなくなったり尿意を感じる神経に異常が生じたりします。その結果、尿意に過敏になり頻尿に至るのです。
過活動膀胱も間質性膀胱炎も、尿意を受け取る神経の異常によって、尿意に敏感になって頻尿を引き起こすことがあります。
睡眠障害
不眠も夜間多尿・夜間頻尿の原因の一つです。夜間眠れていないと、尿が産生されるので、尿意を感じやすくなります。また、夜の静かな環境によって尿意を感じやすくなった結果、夜間頻尿になるケースもあります。
尿意によって目が覚めてしまう患者様もいれば、睡眠の浅さが原因で夜間頻尿になっている患者様もいるので、原因の特定は非常に難しいです。特に、睡眠時無呼吸症候群による夜間頻尿はなかなか自覚することができません。
「いびきがうるさいと家族から指摘された方」や、「熟睡した感じがしない方」はぜひ一度、睡眠時無呼吸症候群の検査を受けてみましょう。
夜間頻尿の診断方法・必要な検査
夜間頻尿の原因は非常に多くあります。加齢だけでなく、生活習慣や薬を変えることで、解消されるケースも少なくありません。
患者様一人ひとりの状態に合わせて、下記の治療法の中から必要なものを選択していきます。
排尿日誌
夜間頻尿が多尿か、それとも別の要因で起こっているのかを調べるのに有効とされています。尿量を記録する日誌帳と、尿量を測る尿カップをお渡ししますので、ご自身で記録してください。用を足した時間(何時何分)と尿量(何mL)、飲んだ水分量(何mL)を日誌にまとめていただきます。
日誌をつける期間はたったの1日ですが、できる限り2日間記録を続けていただけますと、より傾向が把握しやすくなります。
ご自身の尿量について把握しておくと、必要な治療法がはっきりと分かっていきます。面倒かもしれませんが、ぜひ続けていただきたいと思います。
既往歴、併存疾患、内服薬、身体所見
夜間頻尿を引き起こす疾患である、高血圧や糖尿病、心不全、脳血管障害がないかを調べていきます。また、高血圧の薬や利尿剤、抗うつ薬などを飲まれていないかもお伺いします。足のむくみ(下腿浮腫:かたいふしゅ)がないか、寝ている時にいびきをかいていないか、熟睡感の有無についてなど、チェックすることも重要です。
尿検査
尿検査は簡単に、かつ多くの情報を得ることができる検査です。血尿や膀胱炎の有無はもちろん、蛋白尿や尿糖の有無から、糖尿病や腎臓病が隠れていないかを知ることもできます。膀胱炎の可能性が高い方には、まず膀胱炎の治療を受けていただき、一旦様子を伺っていきます。
画像検査
腹部超音波(エコー)検査では、腎臓や膀胱、前立腺肥大(男性のみ)の有無を調べることができます。尿路結石や膀胱腫瘍などといった、頻尿の元となる疾患を見つけるのに有効です。また、女性の場合は、子宮筋腫による膀胱圧迫が原因の頻尿を見つけ出すこともできます。
胸部レントゲン検査では、心不全の有無を調べていきます。脳・脊髄の異常が疑わしい場合は、MRI検査を受けていただきます。必要な場合は連携する高度医療機関を紹介させて頂きます。
血液検査
全ての患者様に行う検査ではありませんが、水分摂取量が多くないのにも関わらず尿量が多い患者様には、尿量と関係のあるカルシウム・カリウムの数値を血液検査で調べていきます。
また、心不全や腎不全、糖尿病の有無を調べるのにも有効です。男性の場合は、前立腺がんが隠れていないかを探るため、PSAの値を調べることもあります。
尿流量測定検査(Uroflowmetry ウロフロ、残尿測定検査)
特に前立腺肥大が見られる男性の場合は、尿流量測定検査や残尿測定検査を通して、排尿状態を把握することが重要です。「思っていたより尿の出方が悪い」と感じた場合は、膀胱への負担が大きくなっていることで、尿が貯留できていない可能性が高いです。
また、膀胱の収縮障害(神経因性膀胱)や、骨盤臓器脱による膀胱瘤、子宮筋腫による圧迫(女性の場合)によって残尿が多くなった結果、頻尿になるケースもあります。
先述した検査の中から、患者様に合った検査方法を選択し、根本となる原因を特定していきます。原因に応じて、治療内容も変わっていきます。
夜間頻尿の治療
生活指導、食事・飲水量指導
多尿で夜間頻尿になっている場合は、排尿日誌をつけていただき、一日の水分摂取量を調節していただきます。また、カフェイン(コーヒー・緑茶など)やアルコール、塩分を多く摂っている場合は、摂取量を制限していただきます。
運動療法、行動療法
夕方または夜に筋トレやウォーキングなどのエクササイズをすると、汗が出てくるため、体内に貯留されている水分が排出しやすくなります。その結果、夜間の尿量が減り、夜間頻尿が解消されやすくなります。 また、ぬるめのお風呂(または半身浴)に浸かったり、青竹踏みでツボを刺激したりすると、血流が良くなるので、体内の水分も排出されやすくなります。 さらに膀胱を温めると血の巡りが良くなるので、膀胱の容量が拡大されやすくなります。足のむくみに悩んでいる方には、昼間に弾性ストッキングを装着する、日中の尿量を増やすなどの対策が有効です。
薬物療法
前立腺肥大症の患者様には、前立腺肥大の治療薬を処方し、膀胱を拡大させていきます。過活動膀胱などで尿意過敏や、膀胱の硬直が起こっている場合は、抗コリン薬などの薬剤を処方します。最近では、「子供のおねしょ」の治療薬として用いられてきた「デスモプレシン」が、成人男性の夜間多尿の治療でも使われるようになりました。「デスモプレシン」とは、夜間に尿が産生されないよう促す「抗利尿ホルモン」と同じような働きを持つ薬です。 人間は年を取ると「抗利尿ホルモン」の分泌量が減少します。この薬には夜間の尿量を減らす作用があるため、夜間頻尿の解消に有効とされています。 なお、患者様によって「合う薬」「合わない薬」は違います。一人ひとりの原因をきちんと見極め、適切な処方を行って参ります。