尿路結石の患者さんが帰りがけによく言うセリフがあります。
「ジャンプして結石頑張って出しますね✨」
確かに、
「ビール🍺をたくさん飲んで、縄跳びしていたら結石が出ました!!」
とか聞くことはありますが、ちょっと待ってください💦
帰り際に言われると何とも説明しづらいんです。
ということでブログにしました。
これも少し前の研究ですが結石に関するものです。
「ジェットコースターに乗ると腎結石が出やすくなる」という興味深い研究について解説します。
この研究は、米国のMitchell MA & Wartinger DDという医師が行ったもので、2016年にJ Am Osteopath Assocという雑誌に掲載されました。
ちなみにこの論文は2018年にイグノーベル賞をとっています。
さらにちなみにここで出てくるジェットコースターは「ビックサンダーマウンテン」です!
では早速論文についてまとめてみます。
〇 研究の背景
腎結石とは、尿中に含まれるカルシウムや尿酸などの物質が結晶化してできる固形物です。(日本人の場合はシュウ酸カルシウムの結石が大多数です)
腎結石が尿管に詰まると、激しい痛みや吐き気などの症状を引き起こします。
腎結石を治療する方法はいくつかありますが、一般的には自然排出を待つか、
・衝撃波結石破砕術(Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy:ESWL 体外衝撃波結石破砕治療)
・内視鏡手術(Transurethral ureterolithotripsy:TUL 経尿道的尿管結石破砕術)
などの侵襲的な方法を用います。
しかし、自然排出には時間がかかり、侵襲的な方法にはリスクや費用がかかります。
そこで、より安全で効果的な方法を探す必要があります。
Mitchell MA & Wartinger DDは、自分たちの患者さんから「ジェットコースターに乗ったら腎臓の石が出た」という話を聞きました。
彼らはこれが偶然ではなく、ジェットコースターに乗ることが腎結石の排出を促進する可能性があると考えました。
そこで彼らは、実際にジェットコースターに乗ってその効果を検証することにしました。
〇 研究の方法
Mitchell MA & Wartinger DDは、人間の腎臓を模した模型を作りました。
この模型は、3Dプリンターで作った透明なプラスチック製の腎臓で、内部には人間と同じように尿路系が再現されています。
この模型には3つのサイズ(4.5mm, 13.5mm, 64.6mm)の人工的な腎臓の石を入れました。
そして、この模型をバックパックに入れてジェットコースターに乗りました。
ジェットコースターは米国ミシガン州にあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの
「ビッグサンダーマウンテン」を選びました。
このジェットコースターは最高速度58km/h、最大高度24m、最大傾斜度40度で走ります。
彼らはこのジェットコースターに20回乗りました。
そのうち10回は前方座席に座り、10回は後方座席に座りました。
そして各回で模型からどれだけの腎臓の石が排出されたかを記録しました。
〇 研究の結果
Mitchell MA & Wartinger DDは以下のような結果を得ました。
- 前方座席では4回中1回(25%)で小さいサイズ(4.5mm)の腎臓の石が排出された。
- 後方座席では24回中23回(96%)で小さいサイズ(4.5mm)の腎臓の石が排出された。
- 中くらいのサイズ(13.5mm)の腎臓の石は前方座席でも後方座席でも排出されなかった。
- 大きいサイズ(64.6mm)の腎臓の石は模型に入らなかったので試験できなかった。
〇 研究の考察
Mitchell MA & Wartinger DDは、ジェットコースターに乗ることで小さいサイズ(4.5mm)の腎結石の排出を促進することを示しました。
特に後方座席に座ると排出率が高くなるとの結果です。
これは、ジェットコースターが急加速や急減速、急旋回などを繰り返すことで、模型内の尿液が動き、腎結石を押し出す力が生み出されたと考えられます。
また、後方座席ではより強い力がかかるため、排出率が高くなったと推測しました。
彼らは、この現象を「キドニー・ハイ・ファイブ」と名付けました。
(ハイファイブはハイタッチのことです!ハイタッチは和製英語なんですね)
この研究は、ジェットコースターに乗ることが腎臓の石の自然排出を促進する可能性があることを示唆しています。
しかし、この研究にはいくつかの限界があります。
まず、人間の腎臓と模型の腎臓は完全に同じではありません。
模型はプラスチック製で固定されており、人間の腎臓は生体組織で動的に変化します。
また、人間の尿路系には筋肉や神経などが関与しており、模型には再現されていません。
したがって、模型で得られた結果が人間にそのまま当てはまるとは限りません。
次に、この研究では一種類のジェットコースターしか使っていません。
ジェットコースターの種類や速度や角度などによっても結果は変わる可能性があります。さらに、この研究では小さいサイズ(4.5mm)の腎臓の石しか試していません。
中くらいや大きいサイズの腎臓の石に対しても同じ効果があるかどうかは不明です。
〇 研究の意義
Mitchell MA & Wartinger DDの研究は、ジェットコースターに乗ることが腎結石の自然排出を促進する可能性があることを示した最初の研究・論文です。
腎結石を持つ患者や、尿路結石の診療にあたる医師にとって非常に興味深い内容でした。
もしジェットコースターに乗ることで腎結石の排石が促進されるのであれば、手術による侵襲的な治療を避けることができるかもしれません。
また、ジェットコースターに乗ることで腎結石を定期的に排石するのであれば腎結石の蓄積や巨大化することを防げるようになるかもしれません。
しかし、この研究はまだ未確定な部分が多く、さらに腎臓模型での実験に基づいているだけです。
人間に対しても同じ効果があるかどうかは確認されていません。
(Yahoo!ニュースに論文読んで乗ってみた!みたいな記事はありますが)
ジェットコースターに乗ることには危険や副作用もあると思います。
例えば、心臓や血圧の問題を持つ人はジェットコースターに乗れないかもしれません。
ジェットコースターに乗って腎臓の石が排出されたとしても、それが尿管や膀胱に詰まって別の問題を引き起こす可能性もあります。
したがって、ジェットコースターに乗ることを腎臓の石の治療法として勧めることはできません。
この研究はあくまで参考程度にとどめておくべきです。
〇 まとめ
今回、米国のMitchell MA & Wartinger DDという医師が行ったもので、2016年にJ Am Osteopath Assocという雑誌に掲載された、ジェットコースターに乗ると腎臓の石が出やすくなるという研究について解説しました。
彼らは、3Dプリンターで人間の腎臓を模したプラスチック製の模型を作り、その中に人工的な結石を入れてジェットコースターに乗りました。
その結果、小さいサイズ(4.5mm)の腎結石の排出されやすくなる、特に後方座席に座ると排出率が高くなりました。
この研究からジェットコースターに乗ることが小さい腎結石の自然排出を促進する可能性があることを示唆されました。
しかし問題点もあるため、腎結石の治療としてジェットコースターに乗ることはお勧めされません。
以上が、ジェットコースターに乗ると腎臓の石が出やすくなるという研究の解説でした。